インフルエンサーと企業と消費者と Part.1

度々、騒ぎになっているインフルエンサーによる虚偽紛いの騒動ですが、なぜこのような騒動が起きるのでしょうか?
インフルエンサーを起用したマーケティングの実態はどのようなのでしょうか?ここで、改めて、纏めてみたいと思います。

■そもそもインフルエンサーってなに?

インフルエンサーは世間に影響力がある人のことなのですが、昔からタレントであったり有名人など世間に影響を及ぼす方々はいました。しかし、改めて、インフルエンサーが認識されるようになったのはブログの普及が大きいです。そのブログの利用者の中で、数千〜数万人の読者を持つカリスマブロガーが登場し、その影響が購買に繋がることがweb上で可視化できるようになり、企業側が取り組むようになりました。そしてTwitterやInstagramをはじめとするSNSや、YouTubeやTikTokなどの動画メディアに変遷すると共に、かつてカリスマブロガーと呼ばれた存在がインフルエンサーと名前を変え今に至ります。インフルエンサーを用いたマーケティングの立ち位置は、以前、紹介した購買行動モデルの中で、商品を知る、商品に興味を持つ、事前に商品を調べる行為が一気貫通で行え、そこから新たな口コミを発生させることも期待されます。そして、インフルエンサーを大きく分けると、皆さんが想像するところの多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーと、フォロワーの数は少ないがフォロワーとの関係性が深いマイクロインフルエンサーに分けられます。大規模なインフルエンサーは商品を知らせ、消費者がより深く商品を知るために検索を行い、マイクロインフルエンサーの実際の商品のレビュー見るという様な消費者行動を組み込んだ座組みを組むことが可能になり、より効果的なプロモーションが展開できます。

インフルエンサーを用いたマーケティングで、数々の問題を起こしてきましたが最も有名なのはステルスマーケティングでしょう。企業が芸能人や有名人に報酬を支払い記事や動画を発信してもらったり、企業が一般消費者になりすまし、口コミやブログなどで情報を発信したりする宣伝行為になります。芸能人や有名人の情報発信の場合はPR表記など行い広告だと明確化することにより解決しましたが、企業が一般人になりすますパターンは、今でもたまに見受けられます。

そして、今回、騒動を起こしたのはコンプレックス商材と言われる商品のプロモーションが騒動を起こしました。コンプレックス商材とはダイエットや薄毛治療、美容、整形などコンプレックスや劣等感に訴求する商材になります。実際にコンプレックスを解消する商材もありますが、数多くは期待される効果が少なかったり、そもそも効果のない詐欺商材もあります。コンプレックス商材は医療系、美容系が多く、通常の広告では表現に規制が設けられており、掲載不可な媒体もあります。ですが、インフルエンサーに効果を語ってもらうなど、グレーゾーンもあります。今回の騒動は有名なインフルエンサーがサプリや豊胸ブラによって豊胸に成功したという広告でしたが、実際には美容手術による豊胸で豊胸手術したことを隠し、サプリや豊胸ブラのプロモーションを行ったというのです。これは十分な詐欺であり、インフルエンサー、コンプレックス商材共に度々問題を引き起こします。

■カスタマージャーニーを意識した設計

このようなネガティブな事例は一部ですが、本来のインフルエンサーの起用は今や重要なマーケティング手法と言えるでしょう。Webの普及化により消費者は商品を購入する際に、情報を探し比較検討することが用意になりました。実際にYouTubeなどでレビュー動画を観たり、ブログを読んで購入商品の比較検討を行ったこともあるでしょう。消費者が自ら情報を探し求めるようになった時に何も情報を提供できていなければ消費者の比較検討のテーブルに乗ることなく、購入されることはないでしょう。とはいえ、企業自らの情報は消費者の目から見ても宣伝と捉えられ、参考にはなるが購入の決定打になることは少ないと思われます。芸能人や有名人ではなくインフルエンサーという消費者と近い存在のレビューが有効になります。

では、どのようなインフルエンサーが有効的なのかと考えると、専門的なインフルエンサーだと思います。例えば、あなたが車の購入を検討しているとします。スポーツカーの購入を検討しているのであれば、有名なレーシングドライバーの意見が有効ですが、SUVであればレーシングドライバーのレビューは参考程度の情報にしかならないと思います。重要なのはその商品に適合した専門的なインフルエンサーの起用が最終的な購入の決定打になります。ただ、SUVを購入検討しているあなたに有名なレーシングドライバーのレビューは「商品を知ってもらう」ための手段と考えるのであれば十分に役割を果たすでしょう。要するに目的に沿ったインフルエンサーの起用が重要なのです。どのような消費者に何を訴求し、購入検討のテーブルに載せ、そして購入まで至るのかを設計し、それに適したインフルエンサーのキャスティングが重要になります。

認知から購入までのタイムラグが短い商品、例えば、コンビニやドラッグストアで購入するような日用品や食料品などは、検討の時間が短いのでフォロワー数が多い広く知られた有名インフルエンサーなどが効果的だと考えられます。ただ、検討の時間が長くなればなるほど、有名インフルエンサーの力だけでは購入に結びつけるのは難しくなると思います。そこで認知は有名インフルエンサー、興味は専門的インフルエンサー、検索はマイクロインフルエンサーとカスタマジャーニーに沿った役割の割り振りも可能になります。ただ、この様な設計を行う場合、キチンと消費者の目線でコンテクスト(文脈)を考えないと、カスタマージャニーに沿わない結果になり、購入に至る消費者の数が大きく下がります。無闇に有名人インフルエンサーを数多く起用しても受け皿が作れていないと無駄になりかねません。

■キモは専門的インフルエンサーとマイクロインフルエンサー

専門的インフルエンサーの商品レビューは、消費者にとっては重要な情報源になります。専門的な観点で時には否定的な意見も出ると思いますが、逆にそのことがその商品のストロングポイントを光らせることも可能です。商品をベタ褒めだけでは消費者の心には刺さらない事は彼らも重々承知していると思いますので、事前の商品説明や打合せを念入りに行う必要があります。彼らが発する情報は、消費者にとって検討のテーブルに乗せられるかどうかの重要な鍵だと思います。

色々な商品やどの世代のマーケティング調査でも、購入の動機に上がるのは「家族・友人から勧め」は上位に来ます。B2Bでも「同業者の実績」などが有力な決定打になります。リアルな口コミは決定打として圧倒的に強いです。これに代わるのは有名インフルエンサーでもなく、専門的インフルエンサーでもなく、マイクロインフルエンサーになります。マイクロインフルエンサーはフォロワーとのコミュニケーションを重視し、まさに友達的感覚で消費者に溶け込みます。そのマイクロインフルエンサーがまさに「家族・友人から勧め」や「同業者の実績」に類する力を持っており、まさに受け皿となり、受け皿になる存在になりますので、様々な属性のマイクロインフルエンサーを数多く起用する必要もあります。

有名インフルエンサーから自然発生的に口コミが広がる場合もありますが、通常は有名インフルエンサーの情報発信だけで止まります。口コミを発生させたい場合でも、口コミのお手本としてマイクロインフルエンサー、商品の詳しい説明役としての専門的インフルエンサーの起用は必須になります。
目的に合わせて、インフルエンサーに発信してもらう内容を決め効果測定の基準、認知であれば実施前後のアンケートであったり、口コミであればSNSへの投稿数、商品購入であれば購入数の推移などキチンと事前に決めておきましょう。スケベ心を出して、あれもこれもとなると訴求内容がブレる可能性があるので、特に初回は決めた訴求内容のみを貫き通し、サブ的に他の影響値を計測しましょう。あと、訴求内容はインフルエンサーとキチンと摺り合わせを行いましょう。雑にインフルエンサーにお願いすると、狙っている方向と違う方向にインフルエンサーが動いてしまう可能性があります。どの様に伝えるかはインフルエンサーに任せるべきですが、事前に狙っている方向になっているかだけでも確認しましょう。

また、インフルエンサー(特にマイクロインフルエンサー)に依頼する際に、テンプレートのメールで連絡したり、フォロワー数だけでターゲット層と異なるフォロワー層のインフルエンサーに依頼を掛けてみたりするのは避けましょう。相手も人ですので、そのような事柄は煤けて見えますし、最悪の場合、インフルエンサーの話のネタとして、晒される可能性もあります。要件を伝える箇所はテンプレートでも構いませんが、一言添えるだけでも大きく対応が変わると思います。

■ボタンのかけ違いが生む誤解

インフルエンサーを起用する際に、ステマなどの様々なリスクが考えられます。キチンとPR表記など消費者に広告ということを徹底させましょう。また、健康食品や美容関連の場合は、商品説明する際の論理の飛躍など説明不足を招くような情報発信がないか確認が必要でしょう。
ただ、このような事象が発生するのには、インフルエンサー自身の広告価値を高めるために行うケースもありますが、広告主や広告代理店の出稿条件や圧力によって行うケースが強いと考えています。前者はインフルエンサーの意識次第ですが、このような意識になるのも広告主や広告代理店の出稿条件がCPAで握られていたり、件数のコミットをインフルエンサーを押し付けていると推測されます。邪推ですが、計測可能なWebの世界なので、広告主がなんでもCPA換算したり、インフルエンサーの代理点が広告代理店にCPAで売り込んでいるのかなと考えています(もちろん、広告代理店がインフルエンサーの代理店に要求しているかもしれませんが)。ですが、インフルエンサーの情報の受け手の消費者が掲載されているリンクから流入する訳ではなく、検索して他のルートから購入に至ることは往々にして有り得ます。それを勘違いしているのか、知って実施しているのかどうか分かりませんがその歪な手法が消費者にボタンの掛け違いを生んでいる様に感じています。

インフルエンサーを起用したプロモーションは、マーケティングの基本に沿って行えば、特段難しい事はありません。事故が発生するのは欲張った内容を広告主や代理店やインフルエンサー自身が求めると、消費者を惑わす場面が増えるでしょう。そのような事がないようにマーケティングの基礎に立ち返って実施しましょう。

羽木昌尚

2004年にコンテンツプロバイダに入社。
デジタルコンテンツの権利の許諾獲得、自社サービスのプロモーション業務に従事。
2006年にコンテンツデベロッパーに入社。
自社アプリの広告出稿業務に従事し、担当アプリにて900万DL達成。
また、自社メディアでの広告マネタイズを経験。
2018年より独立し、モバイルゲームやアプリをはじめ、
有名おもちゃメーカーなど様々な企業、プロダクトのマーケティング戦略の立案と実行を支援。

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