Web3とメタバース Part.2

前回はWeb3をWeb1、Web2から紐解き、中央集権型から非中央集権、
分散型について考えていきました。
今回はWeb3を象徴する言葉として「DAO」を紐解いて行きたいと思います

■DAOとは?

「メタバース」や「Web3」に比べ、「DAO」はなかなか聞く機会がないと思います。
「DAO」はDecentralized Autonomous Organizationの頭文字をとり、「ダオ」と呼びます。
それぞれの単語の意味はDecentralizedは分散型、Autonomousは自律、Organizationは組織を意味し、
合わせて分散型自律組織の意味になり、ブロックチェーン上で成立する組織体になります。
通常、組織は上層部が意思決定を行い、その意思決定に基づき下層部のプレイヤーが実行する、
いわゆるトップダウン型になりますが、DAOの場合では、組織を統率する代表者のみではなく、
一定の権利を持った参加者同士が発言権を与えられ、グループの中で議論され、
基本的にはトークン保有者による投票によって意思決定されます。
そして、意思決定の結果はブロックチェーン上に記録されます。

DAOに参加するためには、DAOでの労働などなんらかの貢献が必要になり、その対価として様々なトークンを得る事で参加できるケース、
または、トークンを購入しDAOに参加できるケース、NFTを購入することによりDAOに参加できるケースなど様々です。
そして、DAOへの参加だったり、投票結果を受けての実行などを行うのが、
ブロックチェーンシステム上の概念であるスマートコントラクトにて行われます。
スマートコントラクトとは、あらかじめ設定されたルールに従い、
ブロックチェーン上の取引やブロックチェーン外からのアクションを基に実行される仕組みになります。
ですので、スマートコントラクトのスマートは「賢い」ではなく、「自動で実行される」という意味になります。

■DAOの分かりやすい事例

仮想通貨やNFTだけでなく、様々な形でDAO的な組織が出来ています。
有名な例としては、「UKRAINE DAO(ウクライナ DAO)」ではないでしょうか。
ロシアのフェミニスト・ロックグループ「Pussy Riot」、NFTのキュレーションなどを行う「Trippy Labs」、
DeFiやNFT関係者の組織「PleasrDAO」により、ウクライナ支援のために開設され、
ウクライナ国旗のNFTは販売後、24時間以内で8億円近い額の資金調達に成功しました。

国内であれば「山古志住民会議」でしょうか。
2004年に発生した中越地震で甚大な被害を受けた山古志村(現・新潟県長岡市山古志地区)は、
震災被害に加え、高齢化や人口流出によりいわゆる限界集落に陥り、消滅の危機になりました。
2007年に発足された山古志住民会議は山古志存続のためにデジタル住民票を兼ねたアートNFTを発行し、
NFT購入者をデジタル村民としてDAOを組成し、デジタル村民専用のコミュニティーチャットでコミュニケーションを行い、
意見の集約・投票など民主的な手法を取り入れた地域づくりを目指しています。
地方創生とDAOを繋げた興味深い事例で、今後も注目されるでしょう。

他にも、様々な形のDAOが存在しましすが、まだまだ発展途上の組織形態になりますが、
直感的にもファンコミュニティーであったり、企業のプロジェクトなどにも利用できると思いますし、
ゆくゆくは企業組織全体がDAO化する未来が来るかもしれません。
ですが、いきなり完全な分散型自律組織に変わる訳でもないですし、
その時その時適切な形の分散型自律組織が形成されるでしょう。

■実は身近なDAO的なコミュニティー

今、数多く語られているDAOですが、ブロックチェーン的な仕様を除けば身近にあります。

先に挙げた山古志住民会議もクラウドファンディングとして捉えることも可能です。

私自身、DAOを教えられたときに、筒井康隆著の「朝のガスパール」を思い出しました。

「朝のガスパール」は朝日新聞朝刊に連載された小説で、一日一話ずつ掲載される特性を活かし、

投書や掲示板の書き込みを反映させたSF小説になります。

作品自体が多重世界でストーリーが進むのですが、

インターネットが普及する前に執筆されているのに、

オンラインゲームの世界が多重世界の一つであったりと、

30年以上前の作品ですが、今読んでも非常に面白く先端的な作品だと思います。

メタ的な表現も多いですが、特筆すべきは投書や掲示板の書き込みにより、

ストーリーの展開に対して読者が作者に要望を出すことができる点がDAO的だと感じられましたし、

投書した方やBBSに書き込んだ方はより一層自分ごと化して楽しめたでしょう。

30年以上に書かれた「朝のガスパール」の作中に出てきたオンラインゲームは、

現在では当然のようになりました。

オンラインゲームはスタンドアロンのゲームと異なり運用が必要になります。

運用の中に、ユーザーの意見を取り入れることは多々ありますが、

実際にオフ会などで、ユーザーを交えてイベントの設計を行なったりすることもありました。

そして、最近ではスクエア・エニックスが、開発段階から、

ゲームのテストプレイとフィードバック、開発メンバーとのディスカッションなど、

継続的にゲーム開発に関われる「LIWゲーム開発会議」を立ち上げました。

この様な手法は共創マーケティングと言われる手法ですが、

継続的な手法は今後トレンドになるでしょうし、

NFTやトークンを用いてWeb3化、DAO化していくのでしょう。

また、「伊集院光のオールナイトニッポン」での「芳賀ゆい」プロジェクトも、

リスナーたちがキャラクターを設定し、自分たちの手で架空のアイドルを作り上げていき、

実際にCDデビューし、商業的に成功する様子を見ながら、

伊集院光とリスナーの悪巧みが上手くいった達成感と、

架空のアイドルという秘密を共有から生まれる高揚感がこのプロジェクトを成功に導きました。

こちらもリアルタイムで投稿できていれば、より一層楽しめたでしょう。

特に深夜ラジオはリスナーの投稿により番組の展開が大きく変わることが多々ありますので、

実はDAOの具現化は深夜ラジオが早いのかなと思ってます。

上記の例は参加することにより、作品に影響を与え、より自分ごと化が進むでしょう。

しかし、一時的な熱狂は過ぎ去るものです。

クラウドファンディングも同様で、一時的な参加感を体験できますが継続的ではありません。

山古志住民会議のケースの場合、もしクラウドファンディングを採用した場合、

一時的な成果は残せるかもしれませんが、継続的な成果は難しいでしょうし、

山古志が抱える問題は継続的な成果を積み上げる必要があるのです。

そこで、NFTやブロックチェーン技術を利用することにより、容易に資金調達を行い、

購入者はブロックチェーン上にNFTを購入した証を残せるだけでなく、

デジタル住民票としての機能をNFTに付与することにより、

コミュニティーへの参加権を与え、コミュニティーに参加することにより、

山古志の抱える課題が徐々に解決する姿が見れるかもしれないという期待感が、

コミュニティーが自走するモチベーションになるのです。

「朝のガスパール」や「芳賀ゆい」のような事例は、他にも多々あると思います。

もっと言えば、組織内で、何かしらの形で自分ごと化し、

議題を出して、議論をして、選挙などの手法で意思決定をされ、

スムーズに実行されアウトプットされる環境がDAO的な経験に近しいかなと思います。

そのためには熱のこもったコミュニティー形成が重要になってきます。

DAOはブロックチェーン技術だけではなく、今まで通りにコミュニティーの運営が重要になり、

コミュニティーマネジャーの重要性はより一層高くなっています。

羽木昌尚

2004年にコンテンツプロバイダに入社。
デジタルコンテンツの権利の許諾獲得、自社サービスのプロモーション業務に従事。
2006年にコンテンツデベロッパーに入社。
自社アプリの広告出稿業務に従事し、担当アプリにて900万DL達成。
また、自社メディアでの広告マネタイズを経験。
2018年より独立し、モバイルゲームやアプリをはじめ、
有名おもちゃメーカーなど様々な企業、プロダクトのマーケティング戦略の立案と実行を支援。

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