IDFAのオプトイン化

2020年6月23日にAppleによるWorldwide Developers Conference 2020(以下WWDC20)が開催され、秋頃にリリースされるiOS 14のプライバシーポリシーについて、大きな変更が発表されました。対象はApp Storeでリリースされている全てのアプリになります。
iOS 14では、iOS端末の広告識別子であるIDFAの使用に制限がかかり、ターゲティング型広告など広告配信を行うことが難しくなると予想されます。
そもそもIDFAとはどの様に使われてきたのか?iOS 14でIDFAの使用制限の内容、どのような影響が出るのか?改めて、取りまとめてみます。

■そもそもIDFAってなに?

そもそも、IDFAってなに?って方も多いと思います。スマートフォンのアプリのマーケティングに関わらないと聞き慣れないと思いますが、どのように使われているのでしょうか?

IDFAとはIdentifier for Advertisersの略になり、Appleがユーザーの端末にランダムに割り当てる広告用の識別子になり、モバイル端末を識別するために生成された一意の英数字の組み合わせになります。この識別子は、アプリがインストールされることで取得できるもので、送信された情報に基づいて広告効果やユーザーのアプリ内のうま行動を計測可能にしてます。特徴としては任意でリセットでき、個人情報を特定できないことです。Androidにも同じようにGoogle Advertising ID(AAID)があります。Webマーケティングに関わったことがあるのであれば、Cookieを広告配信などで使われていたと思いますが、スマホアプリのCookieに近しいモノと考えていただいて、ほぼ相違ありません。

このIDFAやAAIDを使って、広告主=アプリデベロッパーは広告経由での流入をユーザーのプライバシーを保護しながらエンゲージメントを計測しているのです。そして、アプリを使用しなくなったユーザーに再度使用を促すリエンゲージメント広告や、精度の高いターゲティング広告を出稿を可能にしているのです。

しかし、ターゲティング広告やリエンゲージメント広告などの追跡型広告はスマートフォンの管理画面にて、すでに制限を掛けることが可能です。今回のアップデートでどのような制限が掛かるのか?改めて、見てみましょう。

■iOS 14でどのような変化が?

さて、iOS 14へのアップデートでIDFAにどのような制限が掛かるのでしょうか?実はIDFA自体には変化はおきませんが、スマートフォンの利用者の同意を得る必要が出てくるのです。新たにアプリをダウンロードして、アプリを立ち上げたタイミングでダイアログが立ち上がりIDFAの利用の同意、いわゆるオプトインの許諾を求める必要があるのです。このような状況で、許諾を拒否(オプトアウト)するユーザーが一定数いると想定され、許諾を拒否するユーザーの数が多いとIDFAが有名無実化すると考えられています。

では、IDFAに変わる計測手段があるのでしょうか?一つは既に利用されていますがフィンガープリント。そして、iOS 14にてVer.2にアップデートされるSKAdnetworkがあります。フィンガープリントはOSの種類、ウェブブラウザのタイプとバージョン、ブラウザの設定言語、IPアドレスなどを総合してユーザーの端末を特定する技術であり、精度は100%ではありません。一方、SKAdnetworkはAppleの提供するフレームワークになりますが、リアルタイムでの計測ができず、計測できるキャンペーン数にも制限があります。

IDFAの利用に制限が掛かり、フィンガープリント、SKAdnetworkでの計測がメインになった場合、どのような影響が出るのか?広告主&広告事業者、広告マネタイズを行っているメディア、ユーザーの三者の視点で想定してみると・・・・

・広告主&広告事業者(DSP、アドネットワーク)

①キャンペーン別のユーザー獲得単価が不正確になる可能性

➡︎フィンガープリントやSKAdnetworkは仕様上、IDFAと比べると精度は低く、SKAdnetworkはリアルタイムでの計測ができないに加えて、
 計測可能なキャンペーン数の制限があり、海外配信などで言語別、クリエイティブ別で配信すると不便が生じます。

②リターゲティング、リエンゲージメント、拡張配信などの広告配信の精度低下の可能性

➡︎IDFAで追跡していたリターゲティング、リエンゲージメント広告配信できるユーザー数が減る可能性があります。 また、類似ターゲティングなどの拡張配信の精度も下がるでしょう。

③ラストクリックのみ分析可能で、アトリビューション分析ができなくなる

➡︎ラストクリックのみ計測可能ですので、ダウンロードに到る広告接触の計測ができなくなる。

・広告収益メディア

①ターゲティングされた広告が出しづらくなり、eCPMが下がる可能性

➡︎広告主のターゲティングができないので、掲載側のメディアも必然的にeCPMが下がると思われます。

・ユーザー

①自分と関連性の低い広告が配信され、ユーザービリティが著しく下がる可能性

➡︎より一層、興味のない広告が表示され、ユーザーはもちろん、広告主、掲載メディアにも不利益。

あくまでも想定ですが、精度が低下し、データの粒度が荒くなることが想定されます。

■iOS 14の今できる対策

ユーザーがどのような動きを見せるか?SKAdnetworkでどこまで計測できるのか?リリースされないと実際には分からないです。
まずは、広告効果計測ツール(Adjust、AppsFlyerなど)のSDKを最新版にアップデートを行いましょう。
IDFAはユーザーに許諾を得れば使用できるので、ダイアログの表示のためにXcode12にアップデートを行いダイアログの表示を進めてください。
ただ、IDFAの利用許諾のダイアログの表示はダウンロードされて一度だけですので、表示のタイミングや文言、場合によってはインセンティブの付与などの施策を熟考しましょう。

広告主や、代理店、DSPなどにとっては、今までCPIやROASを判断の基準に重きを置いてきた部分もあるが、計測が不十分になると考えると、改めて、予算の配分など考える必要があるかもしれません。もっと言うならば、ユーザーとのコミュニケーション手段を再考するタイミングなのかもしれません。

IDFAの許諾率が低い場合は、今までのアプリプロモーションの考え方が大きく変わる可能性があります。新規DL促進のためにSNSやアドネットワークなどでターゲティングを絞り広告出稿していたのが、今後はブランディング広告的な動きにシフトを変えるアプリデベロッパーも出てくると思いますし、リエンゲージメントやリターゲティングに割いてきた予算を、SNS運用の最適化やコンテンツの拡充にあて、CRM的な部分に注力するのも一つの策になるかもしれません。今までミクロで効果を測定できていた手法が使えなくなり、マス的な動きが求められるかもしれません。

■Androidはどうなるか?

今回のIDFAの利用のオプトイン化は、EUでのGDRP(一般データ保護規則)やアメリカのCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)を意識していると思われ、Androidも追従する可能性も十分に考えられます。iOSでの動きを確認するだけでなく、いつでも対応できるように準備を進めておくべきだと思います。

スマートフォンアプリに関係してらっしゃる方は、9月にリリースされると思われるiOS 14が与える状況は注視する必要があると考えています。

羽木昌尚

2004年にコンテンツプロバイダに入社。
デジタルコンテンツの権利の許諾獲得、自社サービスのプロモーション業務に従事。
2006年にコンテンツデベロッパーに入社。
自社アプリの広告出稿業務に従事し、担当アプリにて900万DL達成。
また、自社メディアでの広告マネタイズを経験。
2018年より独立し、モバイルゲームやアプリをはじめ、
有名おもちゃメーカーなど様々な企業、プロダクトのマーケティング戦略の立案と実行を支援。

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