最近、気になる言葉たち

 マーケティングに関わると、専門的な用語とは別に、色々な業界発祥の新しい単語、言葉に触れる機会が多いのかなと思います。大体は今ある日本語の横文字化だったりしますが、なぜ、その言葉が必要になったのか? 言葉のリフレッシュ以外に何か変化があるのか? 少し考えてみたいと思います。

■ 分散型(ディセントゥラライズド)

 はい、いきなり聞き慣れない言葉ですが、スタートアップ界隈でよく聞かれる「DAO」を略さず書くと、「Decentralized Autonomous Organization」になり、日本語で言えば「分散型自律組織」になり、「Decentralized」は分散型、分権型という意味です。

 ブロックチェーン技術やWeb3の考え方、分散型や非中央集権的な考え方やサービスが普遍化すればするほど、Decentralized 〜や、略したDe〜のような言葉が増えてくるんじゃないかなと思われます。

 例えば、ブロックチェーン技術を用いた金融の世界で、「DeFi」という言葉がありますが、略さずに書くと「Decentralized Finance」で、日本語で言えば「分散型金融」になります。

 他にも、「Decentralized Identifier」や「Decentralized Storage」など分散型、分権型を謳うサービスが、今後増えてくるのかなと思います。 とは言え、いきなり中央集権型から分散型、分権型サービスに変わることはなく、グラデーションの様に徐々に変わっていくでしょうし、既に「人気投票で再販商品を決定」の様なキャンペーンだったり、いわゆる共創マーケティングなどは、マーケティング機能の分権化なのかなと思っています。

■ マスアダプション

 Web3界隈などで、「マスアダプション」という言葉を聞きますが、英語で記すと「mass-adaptation」になり、「mass」は大衆で、「adaptation」は適応力になるので、「みんなが適応力を持つ」って意味なるのでしょうかね。とある方が「マスアダプション=みんな使っている」とおっしゃっていましたが、「みんなが適応力を持つ」→「普遍化」→「みんな使っている」って感じでしょうね。

 似たような考え方でマーケティング界隈で「イノベーター理論」、「キャズム理論」があります。イノベーター理論では新しい製品やサービスの普及率や浸透率を、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)の5段階に分類するマーケティング理論があり、この理論を用いた分析に基づき、マーケティング戦略や市場のライフサイクルなどに関する検討します。

 キャズム理論は、初期市場と考えられるイノベーターやアーリーアダプターと、メインストリーム市場と言われるアーリーマジョリティ、レイトマジョリティの間に、キャズム(chasm)と呼ばれる大きな溝が存在しており、このキャズム(キャズムの谷とも言われる)を越えることが、商品やサービスの普及を左右すると考えられています。このキャズムが発生するのは当然で、イノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる人たちは、「誰も使っていない商品やサービスを使うことで、みんなを先んじる」ことを望み、アーリーマジョリティは、「多くの人が使っている商品やサービスを使うことで、みんなから遅れを取らない」ことを望んでおり、この意識の差がギャップを生んでいるのです。

 Web3界隈などで語られる「マスアダプション」は、マーケティング界隈で語られる「キャズム」を越えるという認識でいいのかなと思っています。

■ 納得解

 横文字が続きましたが、今度は日本語で「納得解」です。最近、お手伝いしているメディアでいまいちPVが伸びず、改善の着き台を提案してほしいと依頼がありました。電子書籍のレビューを動画で配信するメディアなのですが、いまいち5W1Hの中の「Who(誰)」に対するメディアが不明確なため、ターゲットを明確にしましょう。ペルソナはこんな感じで、ペルソナが抱える課題を想定し、課題の解決策を動画で提供するような方向で考えていました。

 ディテールを詰めて、ユーザーとなるべく人の態度変容を想定しながら、ざっくりとカスタマージャーニーを考えるのですが、どのようなコンテンツで消費者とコミュニケーションを取るべきか、改めて考えてみました。

 多様性に富む現代で絶対解を提示するメディアが正しいのか? ユーザーが置かれているシチュエーションごとに、それぞれの正解を提案することは可能なのか? ユーザーの多様化が進み、絶対解の提供は不可能だと考えたのです。

 では、どのような価値や情報を提供すべきなのかを考えていました。何かしらの意図を持って情報を提供しなければ、ただのカタログになってしまいます。

 仕事をする上で、クリエイティブの評価で心掛けている一つである「説得力」という言葉が頭をよぎりました。私の中で「説得力」という言葉は、単純に「周りを説得する力」ではなく、「周りを納得させる力」になります。プロレスの実況や解説で「説得力のある技」といった表現がありますが、分解すると「勝敗を決めるのに観客を納得させる技」になります。

 例えば、新日本プロレスのオカダ・カズチカ選手の「レインメーカーポーズからのレインメーカー」でしょうか。(プロレスを見たことない方には、例になっていないと思われるかもしれませんが、ニュアンス的に捉えて頂ければ)

 この「説得力」を言い換えて、皆さんに理解してもらえるいい言葉がないかと、探していた時に「納得解」という言葉に出会いました。

 「納得解」とは「自分が納得でき、かつ他人を納得させられる解」の意味になりますが、まずは自分自身が納得できる解を導き、納得できる過程を用いて他者も納得できる解になります。

 電子書籍のレビューで、この「納得解」を提供するメディアを提案しまして、運営チームは「納得解の提供」するメディアという方針に納得し、改めて、誰に対して「納得解」を提供するのかを検討しています。

 今回、個人的に気になった言葉を考えてみて、色々と調べて、また考える必要がある事象が浮かび上がってきました。また、機会をみて、言葉を通して、世間を観察してみたいと思います。

羽木昌尚

2004年にコンテンツプロバイダに入社。
デジタルコンテンツの権利の許諾獲得、自社サービスのプロモーション業務に従事。
2006年にコンテンツデベロッパーに入社。
自社アプリの広告出稿業務に従事し、担当アプリにて900万DL達成。
また、自社メディアでの広告マネタイズを経験。
2018年より独立し、モバイルゲームやアプリをはじめ、
有名おもちゃメーカーなど様々な企業、プロダクトのマーケティング戦略の立案と実行を支援。

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